俺と酒とネオン街

金曜の夜。

同僚との飲み会がようやく終電前に解散となる。

ジョニーは帰りふりをしながら一人でひっそりとタクシーに乗る。

運転手に行先を告げる。「ネオン街まで」。

 

いつものジョニーの金曜だ。

ジョニーはタクシーの中で思いを巡らす。

ネオン街を知ってどのくらいの月日がたっただろう。

もうとうに10年は過ぎている。

20代から溺れはじめたものの今やもう中年といっても差支えが無い年齢だ。

共に過ごした友人達も今は家庭持ちでもういない。

街で出会った顔見知りもいつのまにか消えていった。

 

何故ジョニーは今でも夜の街から離れられないのか。

若かりし頃ほどヨコシマな気持ちも無い。刺激も感じなくなっている。

酒で体調は崩れる、泥酔して金を何にどう使ったかすら全く覚えていない。

土曜に意識が戻り、激しい二日酔いの中で口座残高やカード履歴を震えながら見るのが恒例だ。

客観的に見たら良い事など何もない。時間、カネ、健康の浪費だ。

今すぐにでもやめるべきだ。ネオン街に別れを告げろ。

 

しかしジョニーにはわかっていた。ネオン街しかない。本当の俺でいられる場所はもうこの世でネオン街しかないって事を。

現実の世界は息苦しい。仕事に縛られ、肩書に縛られ、家庭に縛られる。

職場で、家庭で、求められる像を演じている。

たまにはガス抜きする場所が必要だろ?

ネオン街はあるがままの俺でいられる。あるがままの俺を受け入れてくれる。

それが虚像の世界だったとしても。

 

タクシーが止まりネオン街に降り立つ。

同僚との不味い酒と物思いにのせいで既に悪酔い気味だ。

 

「クソッタレ、、」振り切るようにジョニーは胡散臭いバーに入る。

「先ずは体を浄化じゃい!」 店員に金を渡す。続けにテキーラを2杯煽る。

「甘いもんものみたい」イエガーマイスターもあおる。

徐々に開放感が体中をかけめぐる。

「これこれ。この心が裸になっていくこの感覚。 ムキ出しの俺だよ。ネオン街にくる理由だよ。」

居合わせた国籍不明の女と更に何杯か飲む。早くもボルテージは最高潮だ。今夜はなぜか酔いが回る。

 

義務、責任、しがらみ、もう俺にまとわりつく何もかもを脱ぎ捨てたい。

「今夜俺はゼロになる。ゼロに戻るんだ。」

さらにテキーラをあおる。

「ゼロになるぜ!」 バーの扉を開けて俺は走り出す。「あああ、ジョニーさん!」

 店員だか客だかの声が聞こえたが関係ない。ジョニーは走った。ほのかに感じる秋の冷気が全身に心地いい。

行先は次のバーだ。 近くサイレンの音がこだましている。

「今夜の俺にはサイレンの音さえ心地いい。」

 

ふとサイレンの音が止まった、次の瞬間ジョニーは何者かに締め上げられた。

「お前何で全裸で外を走っているんだ!!」 「クソが。裸になって何が悪い!」 

「え、、、あれ?、、、」 ジョニーは自分が警察に押さえつけられている事に気付いた。

そして警官の腕越しに下を見ると。自分の一物が秋の夜長にぶらさがっている事に気がついた。

朦朧とした意識の中でパトカーに乗せられる。

「クソ、どうりで全身が心地良いと思ったはずだ。」

拘置所でうなだれるジョニー。職場はクビだろう。家族には何て言えばいい。

「クソ、負けねえぞ。何があっても裸一貫、立ち上がって見せる」


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