横浜黄金町の記憶
かつてこの街に売春宿が密集している路地があった。
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俺は友人に連れられて、
初めてあの路地を歩いた時の事を今でも忘れられない。
幅はわずか3メートルにも満たないくらいだろうか。
路地の両側にスナック型の売春宿がびっしりと並び、ピンクとも紫ともつかない妖しいネオンが淡い光と湿度を放ち、路地を包み込んでいる。
妖しい光の中で娼婦の笑顔がボワワワ~ンと浮かんで揺れている。日本人ではない。南米なのか東南アジアなのか。多国籍というより未国籍。
当時は19歳で女を全く知らなかったジョニー。緊張と恐怖で何とか横目で見るのが精一杯だった。嘲るような笑いと誘惑の舌打ちの音だけが海月のように流れていく。歩いていた時間は5分程度だったかもしれない。ふと我にかえった俺は、友人を促し路地を後にした。怖気づいた訳ではない。自分の中で生まれた衝撃と感情を色褪せたくなかったのだ。
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あの土地特有の磁力、陰の歴史を持つであろう建物の磁力、どこから来たのかもどこへ行くのかもわからない国籍不明の娼婦、路地沿いを流れる汚い川、それらの全てが溶け合い幻影を生み出していた。あんなにもネオンの光が歪んでいたのを俺はかつて見たことがない。ボワワワ~ン。
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今はもうない。
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